狂犬病
Rabies
狂犬病は、世界中に分布し、WHO(世界保健機関)によると毎年5万人以上の死亡者が報告されている。死亡者のほとんどはアジアやアフリカの発展途上国で占められている。狂犬病ウイルスによる人と動物の共通感染症で、発症した場合の致死率は100%である。
疫学・病原体
狂犬病は、エンベロープをもつRNA一本鎖ウイルスで、ラブドウイルス科リッサウイルス属に分類される。
日本では1950年に狂犬病予防法が制定され、わが国の狂犬病発生は、犬で1956年、猫で1957年が最後であるが、それ以降1970年にネパールから1人、2006年にフィリピンから2人の日本人の輸入症例、2020年にフィリピンより来日した外国籍の男性が日本国内で発症し死亡した。
伝播動物は狂犬病を発症したイヌが主だが、アジア・アフリカ・中南米ではイヌ、欧州ではキツネ・コウモリ、北米ではアライグマ・スカンク・コウモリなどからの咬傷や唾液による粘膜感染が多い。
感染者との濃厚な接触がない限り、通常ヒト-ヒト感染はない。
動物における本病の特徴
感染経路は主に咬傷。ほかに唾液による粘膜感染、エアロゾル感染など。
潜伏期間はイヌで3~8週間、ネコでは3週間程度。
症状はイヌ・ネコでは性格の変化、興奮や攻撃性の亢進、流涎などを示す狂騒期、痙攣や意識低下などを示す麻痺期を経て死亡する。
発症前の生前診断は確立しておらず、狂犬病予防法により治療は行わない。
予防に関しては、生後91日齢以上の犬は、毎年1回の狂犬病予防接種が義務付けられている。
動物における法律関係
・狂犬病予防法:(届出義務:犬・猫その他動物)
・監視伝染病(家畜伝染病):(届出義務:牛・馬・めん羊・山羊・豚・水牛・鹿・いのしし)
・感染症法(四類感染症)
狂犬病予防法で狂犬病にかかった又はその疑いのある犬、猫その他の動物(政令指定動物:あらいぐま、きつね及びスカンク)を診断した獣医師又はその犬の所有者に対し、保健所長への届出義務とその犬等の隔離義務が課せられている。
家畜伝染病予防法では、牛・馬・めん羊・山羊・豚・水牛・鹿・いのししが監視伝染病(家畜伝染病)に指定され、診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所への届出義務が課せられている。
人における本病の特徴
感染経路は主に咬傷。ほかに唾液による粘膜感染、エアロゾル感染など。これまでに角膜移植による感染が数例報告されている。
潜伏期間は1~3カ月が最多(60%)だが、最長6年という報告もある。
症状は前駆期に発熱、頭痛、咬傷部位の疼痛、急性期には飲水困難と水への恐怖(恐水症)、顔に風があたる事を嫌う(恐風症)、強い不安感、麻痺期には意識混濁、痙攣発作、麻痺が生じ、発症から20日以内に100%が死亡する。
生前診断は唾液、脳脊髄液、頚部皮膚生検標本から狂犬病ウイルス抗原の検出もしくは
遺伝子の検出による。
有効な治療方法はないが、ミルウォーキー・プロトコルによる治療がなされる事もある。
発症前であれば、ワクチン接種による暴露後発症予防処置が有効な場合もある。
参考文献等
- 共通感染症ハンドブック(日本獣医師会 平成16年10月発行)P124-125 髙山直秀(東京都立駒込病院・小児科)
- 東京都獣医師会 人と動物の共通感染症ガイダンス 狂犬病 https://www.tvma.or.jp/activities/guidance/infections/rabies/
- 国立感染症研究所 狂犬病とはhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/394-rabies-intro.html
- 狂犬病予防法https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=79028000&dataType=0&pageNo=1
- 狂犬病対応ガイドライン2001 ―狂犬病発生の疑いがある場合の対応手引書―https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/pdf/05-01.pdf
- 厚生労働省 狂犬病https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
- 狂犬病臨床研究会http://www.rabies.jp/
- 動物検疫所 ペットの輸出入https://www.maff.go.jp/aqs/animal/index.html
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