代表的な人獣共通感染症

Typical zoonosis

エキノコックス症

  Echinococcosis

 エキノコックスは、感染症法(第13条第1項 届出義務:犬)に指定されており、エキノコックス属条虫の幼虫(包虫)がヒトを含む中間宿主に寄生し、肝臓・肺・脳などに障害をもたらす寄生虫疾患。北方圏を中心に分布する多包条虫(Echinococcus multilocularis)と世界中で流行する単包条虫(E. granulosusu)に分類され、それぞれ多包虫症、単包虫症を引き起こす。
 

疫学・病原体

 
 日本では北海道を中心に、毎年1030名程度の多包虫症の患者が報告されている。2002年札幌市内の室内飼育犬から、北海道以外では20058月埼玉県で放浪犬から、20143月と20183月に愛知県で放浪犬の糞便中から多包条虫の虫卵が検出された。
 多包条虫はキツネやイヌとネズミ、単包条虫はイヌと家畜の間で生活環を形成している。多包条虫の感染源はキタキツネとイヌ、単包条虫の感染源はイヌからが多い。感染した犬は糞便中に虫卵を排泄する。ヒトへの感染は、虫卵の経口摂取による。

北海道衛生研究所 原図

エキノコックス電子顕微鏡写真 北海道立衛生研究所 原図

 多包条虫は体長4mm、単包条虫は7mm程度。
終宿主のキツネ・イヌ・ネコの小腸に寄生し、中間宿主のネズミ・ヒトなどでは肝臓を中心として、肺や脳などに嚢包(のうほう)を形成する。
 
 

動物における本病の特徴

 
 イヌやネコの感染経路は、感染している野ネズミを捕食することにより成立する。
 潜伏期間は野ネズミの捕食後1カ月前後で虫卵を排泄するようになる。
 症状はイヌ・ネコでは無症状のものが多いが、まれに下痢や血便症状を呈し、成虫を排泄する事がある(2002年の札幌市の症例)。
 診断は糞便中の虫卵検出(猫条虫など他のテニア科条虫と鑑別不能)、排泄された片節からの鑑別、虫卵の遺伝子検出、糞便中の特異的抗原の検出。
 公益財団法人 実験動物中央研究所 ICLASモニタリングセンターにて受託検査が可能。
 治療はプラジクアンテル5mg/kg経口または、注射が高い有効性を持つとされる。駆虫により大量の虫卵を排泄するため、排泄物の取り扱いには注意すること。
 予防はネズミを捕食しないように放し飼いにしないこと。
 

動物における法律関係

 
・感染症法(第13条第1項):エキノコックス症(届出義務:犬)
感染症法(四類感染症)に指定され、病原体診断した場合、または臨床的特徴もしくは疫学的状況から犬またはその死体が罹患していた疑いがある場合には、病原体診断を待たずに獣医師は直ちに最寄りの保健所への届出義務がある。
 

人における本病の特徴

 
 感染経路は虫卵汚染された食物・水などの経口摂取による。
 10年前後の無症状期間を経て、肝臓に嚢包が形成され肝機能障害を起こす。進行すると肝腫大、黄疸、腹水症状を呈する。周辺臓器にも広がり、肺、脳にも転移する。感染したまま無処置の場合の致命率は90%以上。
 予防は、感染源となるキツネなどの保虫宿主に接触しないようにし、虫卵に汚染されている可能性のある飲食物の摂取を避けることである。
 また、飼育犬がいる場合は放し飼いにしないこと、定期的な駆虫が推奨される。
 

人における法律関係

 
 感染症法(四類感染症)に指定され、全数報告対象。診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出義務がある。
 

参考文献等

 

 
 

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 エキノコックス症における国内で利用可能な検査機関と、20183月に愛知県知多半島の犬におけるエキノコックス(多胞条虫)感染事例についての情報提供と注意喚起について記載しました。
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