代表的な人獣共通感染症

Typical zoonosis

猫ひっかき病

  Cat scratch disease:CSD

 
 猫ひっかき病はヒトにおける病名である。猫においては通常臨床症状を示さない。
 Bartonella hennseiaeが病原体で感染猫の赤血球中に存在する。ネコノミが重要な媒介となっており、咬傷、掻傷、グルーミングなどにより猫―猫間で感染伝播する。ヒトも保菌ノミによる刺傷や感染猫からの咬傷、掻傷などにより創傷感染し、受傷部近辺の有痛性リンパ節腫脹等を呈する。
 予防においては猫のノミ駆除、定期的な爪切り、猫との接触後の手指の洗浄などの衛生対策を行う。
 

疫学・病原体

 
 本症は日本では1953年にすでに報告されており、近年になって報告例が増加している。
 疫学的には若齢年層の発生例が多く、患者発生には季節性が認められ、夏から初冬に多く、ネコノミの繁殖と関係があると考えられている。ヒトへの感染は咬傷または掻傷によって起こる。猫間での感染はネコノミが媒介し、猫との接触していないヒトが感染した場合もノミが媒介となっている可能性がある。
 病原体はグラム陰性桿菌のBartonella hennseiaeで、日本では猫の9%~15%がこの菌を保有しているとの報告がある。地域的に北より南(気温の高い地域ほど)、性差的には雌より雄(ケンカする機会が多いほど)、室内猫より屋外の猫(ノミの寄生が多い、あるいは他のネコとの接触回数の多いほど)の方がBartonella hennseiaeの保有率が高い傾向にあると考えられている。
 

動物における本病の特徴

 
 感染している猫は、通常は臨床症状を示さない。実験的に猫を感染させた場合、約1週間で菌血症に達し、23ヵ月間持続する。自然感染した猫では12年もの間,菌血症が持続した例もある。
 実験感染した猫では、発熱、一過性の神経機能障害、傾眠、食欲不振などが見られている。
 

動物における法律関係 

 
特に規制されていない。
 

人における本病の特徴

  
 定型例:ほとんどの患者では、咬傷または掻傷から310日以内に、受傷部位に痂皮を伴う紅色丘疹(まれに膿疱)が出現する。さらに2週間以内に所属リンパ節腫脹が出現する。リンパ節は初期には硬く圧痛を伴い、その後は内部が液状となり、瘻孔を形成して排膿がみられることもある。リンパ節腫脹に伴って、発熱、倦怠感、頭痛、および食欲不振が生じることがあるが一般的に良性疾患で自然治癒する。

 
出典:丸山聡一 話題の感染症 猫ひっかき病 モダンメディア第50巻9号2004年203-211
 

 非定型例:510%の患者は重症型になり、Parinaud眼腺症候群、神経症候(脳症,痙攣発作,視神経網膜炎,脊髄炎,対麻痺,脳動脈炎)、肉芽腫性肝炎が認められる。
 心臓弁膜症の既往がある患者では培養陰性心内膜炎の起因の一つとなり、エイズなど免疫機能を低下させる病気がある患者では、感染が全身に広がることがあり、治療しなければ死に至る可能性もある。

人における法律関係

 
特に規制されていない。
 

参考文献等

 

 
 

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