代表的な人獣共通感染症

Typical zoonosis

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症

  Corynebacterium ulcerans

 
 Corynebacterium ulcerans(コリネバクテリウム・ウルセランス 以下、C.ulcerans)感染症は、人、犬、猫、牛の他、様々な動物において感染事例が報告されており、咽喉頭、肺、皮膚、乳腺などに、さまざまな症状を呈する動物由来感染症のひとつである。
 

疫学・病原体

 
 C.ulceransは、ジフテリアの原因菌であるC diphtheriaeの近縁菌で、一部の株がジフテリア毒素にきわめて類似した毒素を産生し、ジフテリア類似の症状を引き起こすことが知られている。
 C diphtheriaeが、ジフテリアの原因菌として人から人への感染が認められているのに対し、C.ulceransは、人から人への感染事例がきわめて稀であるとされている。日本国内においても、人から人への感染報告はない。C.ulceransにおける人への感染源のほとんどが、牛・馬などの家畜動物や犬・猫などの伴侶動物であることが示唆されている。
 日本において、C diphtheriaeに起因するジフテリア症例は、ワクチンの普及などにより、今世紀に入ってからの届出報告はない。一方、近年、人のC.ulcerans感染症の報告が増えつつあり、感染症対策の重要性を示している。2001年に初めて、人の毒素原性C.ulcerans感染症が報告され、2016年には、猫が原因と思われるC.ulcerans感染症により、福岡県の60代の女性が死亡したとの報告がある。
 過去の国内における犬・猫の疫学調査では、C.ulceransの保菌率が010%であったと報告されている。2015年には、大阪市の梅田らの調査報告において、動物管理センターに収容された犬からはC.ulceransが分離されていないが、猫137頭中5頭(3.6%)から分離されている。また、2018年の名古屋市の調査報告では、飼育犬・飼育猫共にC.ulceransが検出されていない。
 

人や動物における本病の特徴

 
 人におけるジフテリア症状に類似し、発熱、咽頭痛、嚥下痛などが認められる。扁桃・咽頭周辺に、白~灰白色の偽膜が形成される。咽頭部に難治性の白苔が認められた場合、必ず本病を疑う。
 牛の乳房炎や関節炎などをはじめ、犬や猫など様々な動物に化膿性炎症を引き起こす。感染動物は、くしゃみ・鼻水など風邪に似た呼吸器症状や皮膚病変を示すことがある。また、動物間で感染が拡大することも報告されている。
 

人や動物における法律関係 

  
 C diphtheriaeによるジフテリアは、感染症法(2類感染症)に指定され、届出が義務付けられているのに対し、C.ulcerans感染症は、届出の必要はない。しかしながら、両者を臨床的に区別することが困難であるため、届出の要否を判断するためには、原因菌の分離・同定がきわめて重要である。
 

予防・感染防御

  
 C.ulcerans感染症に限ったことではなく、人獣共通感染症の感染リスクを軽減する対策を講じる。動物に触れた後の手洗いや飼育環境の衛生管理をはじめ、日常生活の中で動物との過度な接触を避ける。特に、人と飼育動物との間で、同じ箸やスプーンを使用することや同じ寝具で寝ることなどを避ける必要がある。また、猫や犬などに咬まれたり、引っかかれたりした場合には、適切な医療機関へ受診することが重要となる。
 

参考文献等

 

 

会員向けページ

  
コリネバクテリウム・ウルセランスの細菌検査の手順ならびに、サンプリンする際の調査票および、サンプリング時の注意事項および検体処理についてを記載しました。
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