代表的な人獣共通感染症

Typical zoonosis

ブルセラ症

  Brucellosis

 
 波状熱やマルタ熱として知られるブルセラ症(Brucellosis)は、ブルセラ属菌(Brucella spp.)による人獣共通感染症である。現在でも、食料や社会・経済面で家畜への依存度が強く、家畜ブルセラ病が発生している国や地域を中心に、多くの患者が発生している。

 

疫学・病原体

 
 現在、種々のブルセラ属菌(Brucella spp.)が発見されており、グラム陰性、偏性好気性短小桿菌で、芽胞や鞭毛をもたず、細胞内寄生性の菌である。
 日本では、過去に牛のB.abortus感染が流行した経験を持つが、1970年を最後に国内の家畜から菌が分離された例はない。豚のB.suis感染も、1940年を最後に報告はない。
 現在の日本における家畜ブルセラ菌感染例は、すべて輸入症例である。ただし、犬のB.canisについては、国内の犬の約3%が感染歴を持つとの報告があり、ヒトのB.canis感染は、すべて国内感染と考えられている。
 国内においては、2003年に静岡県の犬繁殖施設における飼育犬の間にブルセラ症の流行が認められた事例や、2007年に大阪府和泉市の動物取扱業者(繁殖販売)の飼育犬集団感染事例、2008年に愛知県名古屋市の動物取扱業者(犬の繁殖等を実施)2名がブルセラ症と診断され、当該施設の犬からの感染が疑われた事例などが報告されている。
 動物のブルセラ属菌の自然感染は、経口、経皮、交尾、粘膜感染などすべての経路で成立する。感染動物からヒトへの感染も、ほぼ同様の経路によって感染する。
 

犬における本病の特徴

 
 犬における特徴的な病変は、子宮および胎盤にみられ、不妊や死産、流早産が引き起こされる。感染した犬の多くは、無症状のまま長期間菌を保有し、新たな感染源となる。
 B.canisの主要な感染経路は、交尾感染であると考えられているが、経口感染等すべての経路で感染が成立する。感染犬の尿には、B.canisが混入していることが報告されており、注意が必要である。
 

  • オス犬:前立腺、精巣上体などで増殖。精液中に菌が含まれるため、感染拡大の原因となる。
        精巣上体炎、陰嚢腫脹、陰嚢皮膚炎等
        慢性症例では、明確な症状を示さないこともある
  • メス犬:死流産胎児、胎盤、悪露、乳汁に大量の菌が存在する。
        子宮内胎児死亡、妊娠4555日目の死流産
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動物における法律関係 

 
・監視伝染病(家畜伝染病):(届出義務:牛、鹿、めん羊、山羊、豚、水牛、いのしし)
・感染症法(四類感染症):動物における届出義務なし
・感染症法(三種病原体):(届出義務B.canis、B.melitensisB.suisB.abortus
 
 家畜ブルセラ菌(B.melitensisB.suisB.abortus)とB.canisは、感染症法により三種病原体に指定されており、その取扱い、所持や輸送が厳しく制限されている。
 動物病院などで犬ブルセラ症の検査として、菌の分離・培養・同定を実施し、それがB.canisであった場合、菌を所持・保有していると法の対象となり、厚生労働大臣への所持の届出かつ、取扱施設が三種病原体取扱施設基準を満たしているか、10日以内に滅菌する、もしくは遅延なく譲渡する必要がある。
 

人における法律関係

 
 ヒトへの感染が報告されている主なものは、その病原性の順にB.melitensis(自然宿主:ヤギ・ヒツジ)、B.suis(ブタ)、B.abortus(ウシ・水牛)、B.canis(イヌ)の4種菌である。
 感染症法(四類感染症)に指定され、全数報告対象。診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出義務がある。
 

参考文献等

 

 
 

会員向けページ

 
ブルセラ症における国内で利用可能な検査機関および検査キット、ブルセラ症における獣医師向け参考資料を記載しました。
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