ウエストナイル熱
West Nile fever
ウエストナイルウイルス(West Nile virus)は鳥類と蚊の間で感染環が維持されているが、本ウイルスに感染した蚊の吸血により人や馬などの動物にも感染が成立する。通常ヒトからヒトへの感染はない。
人を含む動物では不顕性感染が多いが、発症した場合は発熱や髄膜脳炎を引き起こす。
疫学・病原体
フラビウイルス科フラビウイルス属ウエストナイルウイルスは1937年に初めてウガンダのWest Nile地方で発熱した女性から分離された。
アフリカ、ヨーロッパ、中東、中央アジア、西アジア、北米など広い地域に分布している。
ウエストナイルは主として蚊(イエカ)を介して伝播される。蚊はウイルス血症を起こした鳥を吸血することにより感染し、感染した蚊の吸血によって鳥が感染するサイクルを維持しているが、時に蚊を介して人や動物に伝播する。人や動物は感染しても血液中に再感染させる量のウイルスを産生する事が少ないためヒトからヒトを含め動物から直接感染する事はない。
愛知県衛生研究所 原図
動物における本病の特徴
本ウイルスに感染する動物は、鳥類(野鳥や家きん)、ウマ、リス、スカンク、ウサギ、コウモリなどが知られているが、馬科動物の感受性が高くモロッコ(1996)、イタリア(1998)、アメリカ(1999~2001)、フランス(2000)などで発生している。
ウマでは潜伏期間は通常5~10日、多くは不顕性感染だが一部は発症。運動失調、脚弱、起立不能、筋攣縮、発熱、顔面神経麻痺、口唇麻痺、歯ぎしり、失明などで、発症した場合の致死率は30%前後。
2006年に馬用不活化ワクチンが承認されているが、国内発生が認められていないため、現時点では使用されていない。
イヌやネコでも感染の可能性はあるが、発症はまれである。
鳥類では多種が感染するが、カラス等の感受性が高く、死亡する種類もある。潜伏期間は通常1週間以内(1~24日)、運動失調、振戦、転回、不全麻痺など。
診断は疫学的状況、ウイルス分離、PCR 検査、中和試験、ELISA 法、免疫組織学的検査(IHC)等の血清学的検査。治療法はなく、媒介昆虫と接触がない状況に隔離し対症療法を行う。
動物における法律関係
・感染症法(第13条第1項):ウエストナイル熱(届出義務:鳥類)
・監視伝染病(家畜伝染病):流行性脳炎(届出義務:牛・馬・めん羊・山羊・豚・水牛・鹿・いのしし)
感染症法(四類感染症)に指定(届出対象動物:鳥類)され、病原体診断又は血清学的診断をした場合、または臨床的特徴もしくは疫学的状況から鳥類またはその死体が罹患していた疑いがある場合には病原体診断又は血清学的診断を待たずに獣医師は直ちに最寄りの保健所への届出義務がある。
家畜伝染病予防法では、流行性脳炎に該当し、対象となる動物を診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所への届出義務が課せられている。
人における本病の特徴
ヒトにおける潜伏期間は3〜15日で、感染例の約80%は不顕性感染。発症した場合、多くは急性熱性疾患であり、約1週間で回復する。一般的に、3〜6日間程度の発熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、筋力低下、食欲不振などがみられる。皮膚発疹が約半数で認められ、リンパ節腫脹を合併する。重篤な症状として、頭痛、高熱、麻痺、昏睡、震え、痙攣などの髄膜炎・脳炎症状が挙げられるが、重篤な症状を示すのは感染者の約1%といわれている。これらは主に高齢者にみられ、致命率は重症患者の3 〜15%とされる。
治療法はなく、対症療法を行う。
参考文献等
- 共通感染症ハンドブック(日本獣医師会 平成16年10月発行)P90-91 高島郁夫(北海道大学・大学院獣医学研究科・獣医学部)
- 国立感染症研究所 ウエストナイル熱/ウエストナイル脳炎とはhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/221-wnv-intro.html
- 厚生労働省 ウエストナイル熱についてhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/west_nile_fever.html
- 東京都獣医師会 人と動物の共通感染症ガイダンス ウエストナイル熱https://www.tvma.or.jp/activities/guidance/pdf/westnilefever.pdf
- 愛知県衛生研究所 注意すべき蚊による感染症 ウエストナイル熱https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/mosquito.html#ma
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